2021-09-23

デジタル教科書とは何か(資料)教科書シンポジウム

第53回 教科書を考えるシンポジウムへの報告
デジタル教科書とは何か(資料)

吉田典裕

【資料1】デジタル教科書の定義

(1)学校教育法

第34条 小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
②前項に規定する教科用図書(以下この条において「教科用図書」という。)の内容を文部科学大臣の定めるところにより記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)である教材がある場合には、同項の規定にかかわらず、文部科学大臣の定めるところにより、児童の教育の充実を図るため必要があると認められる教育課程の一部において、教科用図書に代えて当該教材を使用することができる。
……
④教科用図書及び第二項に規定する教材以外の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる。

(2)文科省ウェブサイト「教科書制度の概要」

学習者用デジタル教科書とは、紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材です(学校教育法第34条第2項及び学校教育法施行規則第56条の5)。このため、動画・音声やアニメーション等のコンテンツは、学習者用デジタル教科書に該当せず、これまでの学習者用デジタル教材と同様に、学校教育法第34条第4項に規定する教材(補助教材)ですが、学習者用デジタル教科書とその他の学習者用デジタル教材を一体的に活用し、児童生徒の学習の充実を図ることも想定されます。

【資料2】デジタル教科書の発行状況と普及状況のギャップ

(中教審デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議「第一次報告」p.2。普及率は2020年3月1日現在)

デジタル教科書の発行状況と普及状況のギャップ

【資料3】発行者によって異なるビューア(義務教育教科書)

発行者によって異なるビューア(義務教育教科書)

【資料4】デジタル教科書が備えるべき機能

(デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議「第一次報告」pp.6-7)
・ピンチイン・ピンチアウトによる拡大・縮小表示機能
・図やグラフや挿絵のポップアップ等
・ペンやマーカー、付箋機能等による、フリーハンド又はキー操作による簡易な書き込み・消去
・書き込んだ内容の保存・表示
・機械音声の読み上げや、読み上げ速度の調整、読み上げている箇所のハイライト表示
・リフロー画面への切り替えによるレイアウトの変更
・背景色・文字色の変更・反転、明るさ等の調整
・文字のサイズ・フォント・行間の変更
・ルビ振り
・目次機能、ページ数の入力による指定ページへの移動、スワイプ等のデバイスを使った任意のページめくり方法の設定
などが挙げられるが、標準的に備えることが望ましい最低限の機能や共通に備えるべき規格について、実証研究も踏まえ、ユニバーサルデザイン仕様の観点や技術の発展も考慮しつつ専門的に検討し、教科書発行者の製作を支援するためにも一定のガイドライン等を取りまとめることが望ましい。

【資料5】デジタル教科書とデジタル教材の異同

デジタル教科書とデジタル教材の異同

【資料6】「デジタル教材等との連携の在り方」

(デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議「第一次報告」pp.7-8)
○学習指導要領の内容で適切に構成されたデジタル教科書と、教科書の内容をより深めたり広げたりするためのデジタル教材を連携させて活用することは、児童生徒の学びの充実に資すると考えられる。なお、デジタル教材は、学校教育法第 34 条第4項に規定する教材(補助教材)であるため、他の補助教材と同様に、「学校における補助教材の適切な取扱いについて」(平成 27 年3月4日付け 26 文科初第 1257 号文部科学省初等中等教育局長通知)も踏まえた適正な取扱いが求められ、多種多様な教材の中から各学校において児童生徒の実態等に応じ使用することが適当である。
○デジタル教科書を利用する大きなメリットの一つが、デジタル教科書を起点としつつ広くデジタル教材等との連携を行い、学びの充実を図るための様々な授業の展開が可能になることである。教材は教科書に比べて相対的に自由度が高く、これまでも教科書に準拠した質の高い教材が発行されてきている。
また、デジタル化されることで多様な教材の迅速な提供も期待される。今後、従来の教材のノウハウを生かした教材や、デジタルの良さを生かした新しい教材など、多様なデジタル教材が、広くかつ容易にデジタル教科書と連携した形で活用されるようになることが期待される。
○これまでのデジタル教科書とデジタル教材との連携の現状としては、教科書発行者がデジタル教材部分を製作し、デジタル教科書と一体的に販売をしているケースがほとんどであるが、今後はより多様な製作主体によるデジタル教材との連携が進むことが考えられる。このため、デジタル教科書とデジタル教材の連携には、学習指導要領のコード付与による連携のほか、児童生徒ごとの様々な学習ツールの窓口となるシステム(学習 e ポータル)を含め、連携が望まれるシステム間の共通規格の整備が必要になると考えられる。先般、学習指導要領のコード化が実現したところであり、今後、学習指導要領、教科書、教材という一連の繋がりを分かりやすくするため、相互の連携を進めることが必要である。
○デジタル教科書とデジタル教材等の効率的な連携について、学習履歴等の教育データの利活用の観点も含め、実証も進めながら総合的な検討を行う必要がある。
紙の教科書や学習者用デジタル教科書等の概念図

【デジタル教科書にふさわしい検定制度の検討】

(同前pp.13-14)
(前略)
○デジタル教科書であっても、その内容の正確性・適切性を確保するための検定制度が必要であることは紙の教科書と変わりはないが、現状と同様に、デジタル教科書の内容は、検定を経た紙の教科書の内容と同一であることとされるのであれば、デジタル教科書について改めて検定を経る必要はない。
○一方、将来的には、デジタル教科書の内容としてデジタルの特性を生かした動画や音声等を取り入れることも考えられるところであり、今後のデジタル教科書の本格的な導入に向けて、新たな教科書検定の在り方の検討が求められる。そのためには、実証研究の成果も踏まえつつ、今後、そのより具体的・専門的な検討を行うことが必要である。また、デジタル教科書については内容に関する検定のほか、標準的な機能や規格に関する基準を満たすことの確認をどのように行うか、更に障害のある児童生徒のアクセシビリティについても一定の水準をどのように確保するかなどの点も含めて検討することが必要である。
○なお、令和6年[2024]度の小学校用教科書の改訂については、教科書の編集・検定・採択をそれぞれ令和3[2021]年度、4[2022]年度、5[2023]年度に行う必要があり、実際には教科書発行者において既に準備が進められている状況にある。これを踏まえれば、検定制度の本格的な見直しについては次々回の検定サイクルを念頭に検討することが適当と考えられ、令和6年度時点においては、デジタル教科書の内容は、紙の教科書の内容と同一であることを維持することが基本と考えられる。
○この方針によるとしても、デジタル教科書には、文字や図表等の拡大や書き込み等をはじめとする様々な機能が付くとともに、紙の教科書であれば教科書の内容と関連のある動画や音声等の様々な教材にアクセスするには、QR コードを読み込む必要があるが、デジタル教科書ではインターネットに接続した状態でより円滑にそれらを活用することができるようになることから、児童生徒の学びの充実に相当程度資するものと考えられる。また、令和6年度時点においても、前述のような多様で迅速な提供が可能なデジタル教材との連携が期待される。

【資料8】紙の教科書とデジタル教科書の供給形態


【資料9】エストニアでのデジタル教科書の現状

(公益財団法人 教科書研究センター『海外教科書制度調査研究報告書』、2020年3月31日、p.264)
「2008年の教育改革では、紙の教科書をすべてデジタル化することが定められた。現在[2019年―引用者]は、紙の教科書をPDF化したレベルではなく、2020年頃を目処にデジタルソリューションとして再構築することを目指している。教育研究省は、教員のデジタル技術を高めるため後述のとおりHITSA*に教員研修を展開させている。例えば、学校レベルでのICT活用について、HITSAが『School Mirror』と呼ばれる診断を行い、学校ごとの課題をポートフォリオ形式で蓄積している」。
* HITSA:Hariduse Infortechnoloogia Sihtasutus。1997年にエストニア政府、タルトゥ大学、タリン工科大学、エストニア・テレコム、エストニア情報通信技術協会によって設立された「経済およびしゃk愛発展のためにあらゆる教育段階の卒業者がデジタル技能を獲得し、教授・学習におけるICT利用の可能性を高め、すべての教育段階におけるICT利用の質的向上を目指す団体」(前掲書、p.259)

【資料10】日本経団連の要求

(日本経団連Webサイト、2020年9月18日より抜粋)

EdTech推進に向けた新内閣への緊急提言
~With/Postコロナ時代を切り拓く学びへ~

Ⅰ.はじめに

経団連は本年3月に提言「EdTechを活用したSociety 5.0時代の学び ~初等中等教育を中心に~」を公表し、Society 5.0時代に求められる人材像を提示するとともに、その人材を育む手段であるEdTech活用に向けた環境整備を求めた。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、多くの学校が臨時休業となり、授業を継続できないことが大きな社会問題となった。こうした状況を受けて、オンライン授業などのEdTech活用が大きく脚光を浴び、政府も「GIGAスクール構想」の前倒しを表明し、小中学校の一人一台端末の早期実現や、学校・家庭での学習のためのネットワーク環境の早期整備等が進むこととなった。

このようにコロナを機にEdTechへの注目が高まった一方で、ハード・ソフトの面でも、これを活用する教育人材の面でも多くの課題が残っており、EdTechによる教育の変革には程遠い状況にある。自治体間、学校間、家庭間でEdTech活用の成否が分かれ、教育格差が拡大し続けている。教育機会の平等を保障することは、公教育の重要な役割のひとつである。コロナを機に社会が大きく変革する時代に、すべての児童・生徒の学びを止めずに質の高い授業を継続し、新たな時代を切り拓く人材を育てていくためには、中央政府がイニシアチブを取り、EdTech活用環境の整備を迅速に行うことが求められる。

経団連は本年7月公表の「Society 5.0に向けて求められる初等中等教育改革 第一次提言 ~withコロナ時代の教育に求められる取組み~」#4でも短期的に求められる教育改革の取り組みを提言した。本緊急提言では、今後1年以内にすべての公立小・中・高等学校においてEdTechの実質的な活用を確実に開始するために、財政措置等、早急に実施すべき施策を提言する。

Ⅱ.新型コロナウイルスと学校教育・目指すべき学びの姿

1.新型コロナウイルスと学校教育(略)

2.目指すべき学びの姿

EdTech活用はコロナ禍における緊急対応や教育機会の平等を保障するという側面だけではなく、提言「EdTechを活用したSociety 5.0時代の学び」で示した通り、Society 5.0時代に向けた中長期的視点でも取り組むべきものである。

EdTechによって、AIドリルによる児童・生徒一人ひとりの学習進捗や能力に応じた個別最適化学習やデジタル教科書などの活用も推進できるため、従来の「教科教育」はより効果的かつ効率的で幅の広い学びが得られるものとなる。また、EdTechの活用がもたらす教科教育の効率化や教員の校務負担の軽減などによって生まれた新たな時間を、STEAM#6教育や成果物を創作するプログラミング教育などの、端末やITスキルも活用した「探究型学習」にあてられるようになる。(中略)

Ⅲ.必要となる環境整備

学びを止めずに格差拡大を防ぐため、そしてEdTech活用を前提とした教育へと舵を切るためには、EdTech活用の環境を一刻も早く整備しなければならない。地方自治体の財源等には限界があるため、第3次補正予算等も含めて、必要な環境整備に向けた財政措置を速やかに講じる必要がある。教育は国の礎であるため、一時的な措置だけではなく、十分な規模の予算を継続的に投じることが求められる。(中略)

1.ハード面の整備

(1)高校生の一人一台端末整備

GIGAスクール構想の前倒しにより、小中学生への一人一台端末の整備が進んでいるが、高校生においては学校のネットワーク環境の整備だけにとどまっている。各家庭のICT環境の差が学力の差につながることなく、すべての高校生がSociety 5.0時代に求められるスキルを身に着けられるよう、来年度から高校生においても一人一台端末の整備を国費投入によって早急に推進していくべきである。


(2)通信費用の手当て

一人一台端末の整備を早急に進めるとともに、学校への持ち込みや、オンライン授業や宿題のために自宅で使用する家庭用端末のデータ通信費やモバイルルータにかかる費用(BYODにかかる通信費用)などについては、特に経済的に困窮している家庭などに対して、当該費用の一定額を手当てすることが必要である。


(3)端末の整備にかかる諸費用の手当て

多くの自治体の財政は逼迫しているため、小中学生の端末購入費用の補助だけでは、ICT環境が完備されない状態にある。キッティング作業やセキュリティ対策、破損を保障する保険、買い替え等の端末にかかる諸費用への継続的な補助が必要であり、毎年の当初予算による予算措置を求める。

(4)教育のICT化に向けた環境整備5か年計画予算の執行(略)


2.ソフト面の整備

(1)教育アプリの費用手当てとEdTech導入補助金の拡充

教育アプリやオンライン副教材は問題演習に特化するのではなく、映像やアニメーションを用いて単元や概念の理解にも利用することが可能な教材を用いることにより、新型コロナウイルスの再拡大への備えや格差拡大の食い止めなど、大きな効果が期待できると考えられる。

GIGAスクール構想により端末購入費用の補助が付いたことで、ハード面の環境が整備される見込みは立っているが、教育アプリを購入する資金がなく、EdTechを実践できない学校も少なくない。紙の教材からデジタル教材への転換を図るべく、政府はアプリの費用を、複数年度にわたって手当てすべきである。また、「EdTech導入補助金」を拡充することで、教育アプリやEdTechを活用するモデル先進校を増やし、EdTechの普及を促進していくべきである。また、政府でも全国の児童生徒が学習・アセスメントができるプラットフォームを整備するとともに、普及に努めるべきである。

(2)デジタル教科書の無償化と完全移行

デジタル教科書の導入によって、生徒一人ひとりが自身の考えや気づきを多様な表現で書き留めて、クラス全体に画面共有することが容易に行えるので、一方向型の授業を双方向型の授業に転換することができる。インターネット機能や動画・音声機能も活用することで、紙の教科書よりも学習の幅が広がり、アクセシビリティも向上する。オンライン授業とも親和性が高いので、新型コロナウイルスの拡大によって登校が不可能になっても、質の高い学校授業を継続することができる。このように多くのメリットを持つが、現在デジタル教科書は紙の教科書の補助と位置づけられて、有償となっている。また、デジタル教科書を使用する授業は、各教科等の授業時数の2分の1に満たないことと定められている現状にある[引用者注。これは撤廃された]。With/Postコロナ時代の学びを実現するために、紙の教科書と同様の予算措置でデジタル教科書を無償化するとともに、授業時数の制限を廃止すべきである。そして、将来的には、紙の教科書からデジタル教科書への完全移行を進め、今まで紙の教科書に充てられた予算をデジタル教科書や教育人材の育成、教育アプリの購入等の予算に配分し直すべきである。

(3)オンライン授業における著作権料の負担軽減

2018年5月に公布された改正著作権法によって、補償金を支払うことを条件にオンライン授業で著作物を教材として使用できる「授業目的公衆送信補償金制度」が制定された。この制度の下、今年度に限って補償金を無償としつつ、デジタル教材の著作物のインターネット送信が認められたが、来年度についても補償金の低廉化及び財政的支援を政府が継続的に手当てすべきである。

3.教育人材面の整備

(1)GIGAスクール構想を支援する人材確保のための予算の拡充

GIGAスクール構想の実現に向けて、民間のICT技術者がICT支援員やGIGAスクールサポーターとして活躍できるよう予算が組まれている。しかし、当該人材確保のための予算が十分ではなく、支払われる報酬単価が低い等の理由から人材が確保できていない現状にあるので、人材確保のための政府予算の拡充を求める。

(2)EdTech企業による教員研修の支援

Postコロナ時代の社会を生き、創造していく生徒を育てるためにも、教員はPostコロナ時代に合った、EdTechを活用した指導法を身に着ける必要がある。スタートアップも含めたEdTech事業者は、プログラミングアプリをはじめとした教育アプリの使い方や、アプリを用いた授業方法などを教員に研修で教えることができるが、研修に充てられる予算が少ないため、実際に学校や教育委員会から委託されるケースは少ない。時代に合った教育を教員が行えるようにするためにも、政府は研修費用の手当てを十分に拡充すべきである。

(3)「教育の情報化に関する手引」の普及と充実(略)

Ⅳ.おわりに(略)

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