2022-01-25

タブレット活用の視点と授業の検討①(理科)

 タブレット活用の視点と授業の検討①

(小学校5年:理科)

北多摩東教育センター運営委員 中山和人

目次

1.ロイロノートの活用での先行実践の分析

2.私の授業をもとに活用場面の検討

3.タブレット活用にあたって大切にしたいこと

各市の先生方との交流の中で、「タブレットが配布されたのだから、とにかく使うように」という指示で困惑している実態がたくさん寄せられています。

わたしは、次の様に語ってきました。

・子どもがよく分かるように、ツールとしてどんな場面で使うのが効果的か

・積み上げてきたすぐれた民主的教育実践をタブレット活用バージョンに(ベテランと若手のコラボで)

・気軽に交流する場(Zoom併用)・少人数で何回も学び合う場を広げましょう

そこで、今回、タブレット配布前の自分の授業を振り返り、検討します。


1.ロイロノート活用での先行実践の分析

5 理科 メダカの誕生

メダカの誕生

〔この授業の検討〕

1.授業では、動物の種族維持(子孫を残す営み)の観点でメダカの雌雄の違いを見る視点よりも、ロイ ロノートをどう効果的に使うかに光が当てられています。

2.学習指導要領では、この単元の目標は、
「動物の発生や成長について,・・・資料を活用したりする中で,・・・(ア) 魚には雌雄があり,生まれた卵は日がたつにつれて中の様子が変化してかえること」と、示されています。
この目標を達成するためにこの授業では、タブレットを活用する場面は、
「2.タブレット端末を使用し検索2つ以上のサイトで確認し、正しい情報を取捨選択」
「4.ノートを写真に撮り、ロイロノート内の提出箱に提出。自分の結果と学級全体の結果を比べ、情報の正確性を確認する」
「6.写真や動画で撮る・拡大・一時停止等で確認。」
⇒この授業事例は、タブレットを使い、学習指導要領の目標の達成のために有効活用した例です。

3.学習のねらいについて
今まで積み上げてきたすぐれた授業実践に学びながら、わたしは授業をしてきました。
江川多喜男さんの「小学校理科の学力」(子どもの未来社)にはこう書かれています。
「小学校では、自然界は生物と無生物で構成され、生物界は動物と植物に2大別できるとする。無生物はなく、生物にだけある特徴を考えさせると、『栄養をとる』『呼吸をする』『成長する』『仲間をふやす』『いつかは死ぬ』をあげることができる。生物の基本的な概念は、個体維持と種族維持である。生物は、外から必要なものを取り入れ、体内にできた不要物を外に排出して生きている。そして、やがては死ぬので、種族維持の営みをする。このことを中心に、多様な生物の存在と生活をみるようにする。ヒトも生物の一員として位置づけ、ほかの動物との共通点と差異点を見るようにする。~生物領域の観点は、
1.すべての生物は子孫を残す
2.すべての生物は栄養をとる
3.ヒトも、直立に歩行する哺乳動物である
4.人間も自然とのかかわりをもって生きている 」

K社の教科書の「資料:メダカのオスとメスの体の形のちがい」の欄には、こう書かれています。
「メダカは、メスが卵を産むときに、おすがせびれとしりびれでめすを包み、体をすりあわせて卵の精子をかけます。このため、おすとめすでは、せびれとしりびれの形にちがいがあります。」
「資料」には、このことを単元学習で大切にしてほしいという教科書執筆者の願いが込められています。

この授業のねらいが「メダカには雌雄があり、体の形状が異なることを理解する」とあるのは、学習指導要領の強いしばりがおおもとにあるのでしょう。タブレットの活用の検討は、こうした学習指導要領の問題点にいきつきます。
私は、「何のために何を観察するのか」を自覚できる課題設定で授業をしてきました。学習指導要領をふまえつつ、生物が子孫を残す繁殖について科学的に且つ意欲的に学ぶことができるように工夫してきました。
では、タブレットは、どの場面で活用するか、教科書の指導計画をふまえて考えてみます。

2.教科書の指導計画と私の授業をもとに活用場面の検討                      

①教科書の指導計画  

K社の教科書の指導計画 メダカのたんじょう 6~7月(5時間)                                  
(1).ねらい 
メダカの雌と雄を飼って卵を産ませる活動をもとに問題を見いだし,受精したメダカの卵を調べる観察を通して,受精したメダカの卵の育ちに関する予想を確かめることにより,受精したメダカの卵は11日間くらいかけて中の様子が変化してだんだんとメダカらしくなり,その卵からメダカの子がかえることを捉える。

(2).学習活動(5時間)
・メダカの雌と雄を飼って卵を産ませる。(見つけよう,メダカの飼い方)                               
・受精したメダカの卵がどのように育つのかを調べる。(観察1,かいぼうけんび鏡の使い方,そうがん実体けんび鏡の使い方)                                                 
・いろいろな魚について卵の産む場所や卵の育ちを調べる。(学びを広げよう)                         
教科書(原文のママ)にある学習課題                                           
●見つけよう メダカのオスとメスを飼って、たまごを産ませましょう。(前述で紹介した授業はここです)             
●問題1 受精したメダカのたまごは、どのように育つのだろうか。                    
(予想しよう 計画しよう)                                             
●観察1 受精したメダカのたまごがどのようにそだつのかを調べよう。                             
(かいぼうけんび鏡とそうがん立体けんび鏡の使い方)                           
●結論  受精したメダカのたまごは、11日間くらいかけて、中の様子が変化してだんだんメダカらしくなり、そのたまごからメダカの子どもがかえる。                            
●学びを広げよう メダカは、産んだたまごを水草などにつけますが、卵を産む場所は魚によってちがいが
あります。いろいろな魚のたまごを産む場所やたまごの育ち方について調べてみましょう

②私の授業をもとに活用場面の検討

(顕微鏡の使い方をプラス1時間で6時間扱い)            
(1).単元のねらい 
①メスが産んだ卵がオスの出した精子と結びつくことを受精という(生命の始まり)。卵を産む数は子ども
の育て方と住んでいる環境に関係があることがわかる。
②受精卵の中で、メダカは成長して稚魚になることがわかる。

(2).学習活動(5時間)
1時間目:動物の誕生     
課題①動物が次の世代を産む数を調べ、特徴を見つけよう
→少なく生む動物は親が食べ物を与える。多く産む動物は、生まれたら自分の体の中の養分でしばらくの間育つ。   
ICTの活用・・・板書にある動物の写真を電子黒板に大きく提示する。
(従来の板書)
板書「動物のたん生」
2・3時間目:メダカの誕生(2時間扱い)
課題②メダカが誕生する時のオスとメスの役割は何か。
→オスとメスの体の形の違いと水中での受精・産卵の時の役割と関係づけて考える。
・NHK for School「メダカの産卵の様子」を見て、オスが精子をかける時、水中で確実にかかるようにしりびれをメスの体に巻き付ける様子の場面に注目させる
・自作の画用紙で作ったメダカのオスとメスオスの教具を使って、しりびれは大きくて平行四辺形で、尾びれは切れ込みがあることを確認する。
・流れる川の中で確実に受精できるように、オスはメスの横に寄り添い、背びれとしりびれでメスの体を包み込むようにする。そのためにオスの背びれは切込みがあり、しりびれはメスより大きく平行四辺形の形をしている・・・・このことに気づかせる
・録画や画用紙の模型で体の形の違いには、このような理由があることに気付かせる。
・受精・・・教科書の記述とビデオで確認する(板書) 
「メスが産んだ卵がオスの出した精子と結びつき卵の中で変化が始まる」
「卵と精子が結びつくことを受精といい、受精した卵を受精卵という」
・オスとメスの見わけ方をメダカをビーカーに入れたものを配って確認する。
・わかったことをノートにまとめる。
板書「メダカの誕生」

ICTの活用  オスとメスの体の形の違いと水中での受精・産卵の時の役割と関係づけについてノートに書き込む。タブレットを活用してノートを写真に撮り、班の中・学級で共有し、友だちの文を参考にさらに各自でノートに書き加える。(この実践の年度はタブレットは配布されていませんでした)

(授業の後半に、ビーカーに1匹ずつメダカを入れ、オスかメスか班ごとに判断し黒板に書かせる。次の班とメダカを交換して、判断が正しいか確かめあいをする。板書の〇はその印です)

【子どものノート】

◇オス・メスの役割は子どもを残すことだと思いました。オスは精子をかけ、メスは卵を産む。そうして、子孫を残していくのだと思いました。

◇メスが卵を産むときにオスの精子が流れていかないようにオスはしりびれでつつむようにして受精する。

◇オスは、メスが卵をうんだとき、精子をかくじつにかけられるように、しりびれが、平行四辺形、背びれに切り込みがはいっている。メスは、卵をうむのが役割。予想だがしりびれは三角形でたまごをうみやすい。

4時間目:顕微鏡の使い方(双眼実体顕微鏡と解剖顕微鏡)

5・6時間目メダカの受精卵

課題③受精卵の中でメダカはどのように成長しているか観察しよう。

観察の様子は、タブレットによる写真ではなく、ノートに鉛筆で書く。観察して書きながら、気づくことがあります。そうした過程を大切にしたいと思います。書くことを通して思考を深める場だからです。

理科でノートに書くことの意義を考える

観察の視点が明確になると、子どもは自分でノート書きながら、発見し・考え、それを自分の言葉で記録していきます。書く活動は、思考を深め考える力を伸ばす大切な学習活動です。これをタブレット活用に切り替えてネットで調べることが効果的とは言えないのではないかと考えます。どの場面でタブレットをどう活用するかは、発達段階と授業のねらいで決める問題です。

●先行事例の授業では、場面4でタブレットを活用し、場面②と場面⑥での活用は再検討が必要だと思います。

【参考】以前の教科書では、メダカの誕生とプランクトンの観察が教科書では連続して取り扱われていました。その時の「メダカの誕生」の全体の授業記録は、わたしのブログ「板書ノート」にあります。参考にしてください。ネットで、【bansyonote】と検索すると、「板書ノート」が出てきます。5・6年の理科の全単元の1時間ごとの板書や子どものノート・教材研究が出ています。

3.タブレット活用にあたって大切にしたいこと

①今までの授業で大切にしてきたことを継続して、子どもの基礎学力をつけるために、よくわかる授業にツール(道具)としてどの場面で使ったらいいか、使わない方がいいかを考えて実践してみる。

②タブレット活用について、自分の実践・疑問などを気軽に交流する場を、同僚や教研(Zoom併用)の場で少人数で何回も重ねていく。

③積み上げてきたすぐれた民主的教育実践・教育課程づくりの成果を生かすために、ベテランと若手のコラボでタブレット活用バージョンにしていく。(学習指導要領から出発するのではなく子どもの実態に即して)。

④デジタル教科書・タブレットの活用で可能性が広がる新たな学習方法の研究は、教材研究と一体で。

こうした授業の拠り所は、

憲法26条「 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」

・・・・教育を受ける権利の保障。普遍的で共通の教育=普通教育を受ける権利の保障


タブレット活用「先行実践」授業の検討② 

説明文の授業の検討

〔授業の検討〕

◆「教材文を読む」とは、ロイロノートを使い「わかりやすい順序に並び替える」ことになっています。「説明文の教材文を読む」ことを通して「論理的思考力を育てて、文章を論理的に読解する思考力を身につける」(「読みの授業と理論」子どもの未来社)ことが大切です。そのためには十分な指導時間をとり、つなぎ言葉にも着目し、何をどのように説明しているか、丁寧な授業が望まれます。

◆「説明する文章を書く」では、タブレットを使って写真のトリミング・文章を写真で撮る・友達と共有する・感想を付箋に書いて伝え合う学習でタブレットが多く使われています。低学年では、「順序良く書く」時間を十分保障し、個別指導も必要になってきます。場面5でタブレットを活用して「感想を付箋に書いて伝え合う」活動をしていますが、自分で友だちの作品を読む・学級で作品を読み合い話し合いで深める授業が大切だと思います。

◆理数系8学会が文科省にデジタル教科書推進にあたって提言を出したが、次の事項は参考になります。

「生徒が学習した内容を自分のものとして定着させるためには、自発的に学習内容を記録・整理する時間を十分取ることが不可欠です。デジタル教科書の使用によって、学習内容が短時間に効果的に提示され、教師の提示内容と同じものが即時的に手元に残せたとしても、それだけでは学習したことにならないのは当然です。デジタル教科書による学習の「効率化」が、生徒が手と頭を働かせて学習内容の記録・整理をおこなう時間の縮減につながらないように、十分な配慮が必要です。」

◆現行の学習指導要領にもとづく教科書でも、文学教材や説明文教材は、じっくり話し合いで読み深めることよりも、表現活動のための「お手本=例示」の様な扱いです。学習指導要領によって価値ある文学教材・説明文教材が激減してきている実態から、教科書にある教材は、読み取る力をつけるために丁寧に扱いたいものです。

0 件のコメント:

コメントを投稿