2022-08-05

「アメリカの農業の授業」を通してICT教育を考える

 

中学社会 アメリカの農業

アメリカ合衆国の農業をどう教えるか
~大規模・効率的・企業的だけでいいのか?

(東京 中学校S先生の報告)

はじめに 

この4月からの大きな変化は…
・新学習指導要領に準拠した教科書での授業
・3観点による評価・評定
・一人一台タブレット
通知表の書式

1 中学校社会科世界地理のなかで大切にしたいこと

①社会科は社会認識を育む教科
主権者としての力である「社会認識」をつくるための知識・理解を大切にする。
世界の人々の生活の課題の現代世界の諸課題につながっている。
②その地域(国)の生活と課題がみえるテーマをもりこむようにする。 
「なぜだろう」という問いが生徒から生まれることを大切にする。
人々のくらしの背後のあるものを考える。
③「物産地理」「産業学習地理」の知識詰め込みにならないこと。
「指導内容は削減」されていない。生徒の主体性を持たせるたえには計画が必要。

2 学習指導要領と新教科書はどう変わったか。(地理の場合)

・テーマを設けた学習になることが明確になっている。
視点が適切かの授業者の検討が必要。
・単元ごとに「学習課題」「確認しよう」「まとめよう」などの手立ても細かく書かれている。
子どもの「なぜ?」「どうして?」を喚起するものになっているか。
・「学習内容の削減」はされていない。
学習内容の見通しをたてて指導計画をつくらないと詰めこみの授業になってしまう

3 わかる・たのしい授業の課題 

① 子どものための本物の探求・思考とは何か (クレスコ198号石山久男)
「子どもたちは、科学的に確かめられた具体的な社会の現実と歴史の真実に、その中で真剣に生き抜いてきた人々の姿にふれたとき、新鮮な発見をし、本物の探求と思考に向かう」
②デジタル教科書をどう考えるか(中山さん報告より)
デジタル教科書について
① 3観点の評価にどう対応するか。

4 世界地理の計画

(1)6地域は、北アメリカ州→南アメリカ州→ヨーロッパ州→アフリカ州→アジア州→オセアニア州の順で学習してみました。
(2)北アメリカ州の指導計画
北アメリカ州(多くの人々をひきつける地域)5時間
1時間目 アメリカの歩み(自然 多様な人々 歩み)
2・3時間目 アメリカの農業の今とこれから(アメリ農業の特徴。課題は何か)
4時間目 アメリカの工業の発展(自動車からICT産業へ)
5時間目 アメリカの光と影(金持ちと貧困、差別などの課題)
(3)●中学地理の新教科書 「アメリカの農業」
「アメリカの農業」

5 私の実践 「アメリカ合衆国の農業をどう教えるか」

(授業プリント参照) 2時間扱い

【1時間目】

Q1   アメリカが世界の「食料庫」といわれる理由を説明しよう。   
(教科書P104の図2)
Q2   アメリカの農業従事者はどれくらい?
① アメリカの農業従事者 (   )万人(2017年)   
アメリカの人口の(  )%
Q3 少ない人口で農業大国なのはなぜ?
QRコードの活用 
アメリカ合衆国の農業 | NHK for School
Q4 農業地域はどうなっているか
・①~③でつくられている作物
・何が地域をわけているか
Q5 センターピポッとは何か。
機械化された「かんがい農業」の典型
Q6 フィールドロットとは何か
企業的・効率的農業の典型
●アメリカ農業のまとめ

【2時間目】

●前時の確認  QRコード2の活用
深めよう  
「アメリカでは( ア )農家が減少し、( イ )農家で( ウ )的な農家がますます重要になっている」(教科書P105)…ほんとうかな?
アメリカの面積別農場数
Q1  アメリカの農家は大規模な農家が本当に多いのか?
Q2 アメリカ農業をささえてきたのはどんな農家か。
・「家族経営の小規模農家」(教科書より)
・やとわれて働くメキシコ系移民
・なぜ「移民をやとう」だろう?
Q3 2017年ではどの規模の農家が増えているか。
・アメリカの農民は二つの道を選ぼうとしてる
Q4 なぜだろう。
・大規模農家をする人
・小規模農家をする人
※企業的、大規模な農業の抱える課題について補足が必要
・地下水の枯渇
・土壌流出
・バイオテクノロジーの活用 遺伝子組み換え農業 

●考えよう2 あなたならどちらの農家を選ぶか。その理由は? 
農業センサスの発表

6 生徒の意見

【小規模】

1小規模  ここ最近食べ物のロスが多いため出来るだけ地産地消を心がけ、減らしていきたいから。
2小規模 大規模は少し不安がある。小規模の方が高いが、安全を優先したい。
4小規模  今、注目されている「地球にやさしい暮らし」として、無農薬で自然を元にした食品を消費者は求めているから
6小規模 品質の洋物を作った方がいいから。
8小規模 買ってくれる人が安心できる。土地代があまりかからない。地域に貢献できる。失敗しても代償が小さくてすむ。
9小規模 少ない農場でありながら、おいしく作れるし、買った人もおいしいと思えば人気になるから。
12小規模 機械を使って育てるのではなく、自分の手で工夫して育てていきたいから。うまく育てられた時の達成感を味わえる。"
14小規模 なぜ小規模農家を選んだと言うと、新規参入のハードルを下げることができると思います。二つ目は、農地面積の狭い畑でさまざまな農作物を植えることで、台風などの被害を受けても、一部の農作物を植えることで「出荷がゼロ」という事態を避けることができるとおもったからです。
16小規模  機械で育てるのではなく、自分の手で工夫して育ててみたいから。また、上手く育てられたときに達成感を得られるから。"
17小規模 お金が掛からない。大規模は大雑把になるが、小規模は1つ1つに気持ちを込めて作ることが出来る。水の不足の問題もあるので。"
33小規模 災害が起きたり水不足になった時に損失が小さくて済むし、すぐに立て直せる。農薬を使わないでも管理できる作物の量だから。"
36小規模 農家の視点→質の良いものを作れる。体に良いものを食べてもらいたい。買う人の視点→体に良いものを食べたい。遺伝子組み換えした作物ではなく、安心安全なのを食べたい。"
37小規模 より良い品質のものを食べてもらいたいので、労働はきついかもしれないが、小規模がいい。大規模だと、自分での管理が難しいと思う。"
39小規模 農業を続けていくのなら、損をしない方がいいから。農薬を使わない方が、買う側も安心だから。農薬で問題が起きたら大変。"
40小規模 時間をかけて、より良い品種を作ることによって、経済的にまくいくと思うから。品質が良い方が買う人も多いと思う。
43小規模 体に良い無農薬で作っているので、安心して食べてもらえる。大規模農業は、多く生産するため、機械や薬を使ったりするので、小規模農業が世界にもう少し広まってほしい。地産地消は、地域を応援することに繋がるから。"
44小規模 手間暇かけて確実に育てられる方がいい。大規模は育たなかった場合の損害が大きいから。

【大規模】

3大規模 大きいけれど苦労した分、自分に喜びをくれる(お金がもらえる)
5大規模 お金が多く入り、そのお金を元に機械などを買えば、苦労せずに充実した生活が送れると思うから。
10大規模 儲かる。副業できる。
11大規模 土地が広いので、災害や干ばつなどの影響を受けても、企業力で再生できる。ただ、もしこの先、JA的な小規模農家連合が発足した場合、小規模へ転向するかもしれない。買うなら、少しばかり高くても、小規模農家のものを買いたい。品質も良く、農薬を使っていないのは結構大きいと感じるから。"
13大規模 小規模は新しい品種を作るのにいいと思うが、大規模でも、少しのスペースで作れると思うから。大規模は、値段を安く売ることが出来る。"
15大規模 多くのものを生産し、沢山の利益を得られるから。色々な実験(品種改良)ができる。
32大規模 農家の人が少しでも手間を減らせるようにという思い。たくさんの作物を育てられる。

7 まとめと課題

①「食料自給率30%の日本」「貿易自由化」「日本の農作物を外国へ売り込む」など、日本の食と農業のあり方をめぐっては、貿易のあり方とも結びついて、主権者として何を選択するのかが問われている。中学社会科3年間の中でその土台をつくりたい。 世界地理の中では、各国の農業の様子を取り上げる意味がそこにあると考える。他の地域では、「EUの農業政策」など…
②国連「家族農業の10年」国連総会で決定。2019年から28年までの10年間。
持続可能な農業のあり方が世界でも問われている。コロナ禍のなかで、メガファームでは生き残れないという主張もでてきている。教員も勉強しながら、生徒とともに考えていきたいテーマ。
③教科書の枠のなかの「アメリカの農業」のイメージが固定化されてしまう。アメリカの農民たちも模索している現実があるということを知らせたい。
教科書(帝国書院)の記述より

8.デジタル教科書・デジタル教材について

①.資料「アメリカの面積別農場数」の表を見てください。面積毎の農家数とそれが全体に占める割合を見ると、アメリカは「大規模な農業」という言葉だけでまとめるのは難しいことが分かります。1000エーカー以上の大規模農家数は、200万戸という農場(戸)全体の8%です。
②.デジタル教科書・デジタル教材がセットで配られるときに気を付けたいこと、危惧することがあります。
〇教科書の記述をもとに、便利なデジタル教材を使うと、アメリカの農業は「大規模な農業」だと、「わかりやすく」生徒に指導できるでしょう。しかし、上に述べた様に、この枠の中だけで学ばせるのは問題です。
多忙な学校現場では、自主的な教材研究の時間が持ちにくいです。すると、デジタル教科書とデジタル教材で授業が「完結」して、画一的な教育が広がる恐れがあります。

9.大切にしたいこと

〇自主的な教材研究で「アメリカの農業の実態や課題は何か」と教師自身が学ぶことが出来れば、「多面的・多角的に考察して」(学習指導要領にもある文言)、豊かに学び合う授業が出来ます。
〇生徒の発達段階に即した自作の教材や様々な資料を活用して豊かに学ぶためには、教師の専門性が尊重され、そのための教材研究の保障が不可欠です。また、今まで積み上げてきた民間教育研究団体の自主的な豊かな実践に学ぶことが、大切だと思います。「どのように効率的に学ぶか」に焦点を当てるのはなく、教材そのものの研究を土台として(学問研究の成果)、「何を学ぶのか=具体的な現実の姿と課題」を大切にしたいと思います。

〇参考
学習指導要領の地理的分野で、アメリカについては次の様に書かれています。(下線は筆者)
「④ 北アメリカ州:<主題例>農業地域の分布,産業構造の変化に関わる課題など
北アメリカ州を大観する学習を踏まえて,例えば,アメリカ合衆国(以下,アメリカという。)を対象に「アメリカでは農業地域の分布にどのような特色があるのか」,「なぜアメリカは,世界有数の経済大国となっているのか」などといった問いを立て,前者の場合,アメリカの自然環境,都市の分布,交通網の整備などを地域の人々の生活と関連付けて多面的・多角的に考察して,産業の立地に関わる一般的課題とアメリカにおける地域特有の課題とを捉える。
授業プリント 問1~問3

問4・問5

「深めよう」

「考えよう」


資料 フィードロット

●用意した映像資料 
フィードロット・センターピポット
土壌流出・塩害
従来のトウモロコシと遺伝子組み換えトウモロコシ

●参考文献
「農業大国アメリカで広がる『小さな農業』」(河北新報記者 門田一徳著)家の光協会
「13歳からの食と農」(関根佳恵著)かもがわ出版

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