デジタル教科書・タブレットと教育実践(国語を中心に考える)
目次
はじめに1.デジタル教科書本格導入
2.ICT活用の教育を進める研究団体の動向
3.世界の教科書制度とデジタル教科書
4.「令和の日本型教育」とデジタル教科書・タブレット
5.国語での(文科省HP)ICTを活用した授業例
6.デジタル教科書導入の時代の国語
おわりに 学び合いたい書籍のご案内
はじめに
わたしの小学校時代の卒業文集に、ある友だちはこう書いていました。「一年生の時、初めて書いた作文はこうでした。『〇ちゃんたちとあそびました。おもしろかった』。これだけしか書けなかった私がこんなにかわるものかと思うとふしぎでたまらない。でもうれしい気がする。」
その級友たちと卒業して四七年目に、クラス会で再開し、その場でしみじみとこう語った友だちがいました。
「おれは、仕事も何もかも失った時に、先生が『本を読め、本を読め』ってずっと言ってたことを思い出して本に没頭した。そして自暴自棄にならずに立ち直れたんだ」。
担任の先生は、本の読み聞かせ・話し合いで読み深める国語の授業・作文に力を入れ、「自分の頭で考えて判断できる人になれ」と、いつも語ってくれていました。
半世紀を経て小学校教育の効果が確かめられた一コマでした。
1.デジタル教科書本格導入
今年の8月25日、文科省「第5回教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ」が開かれ、次の様な論点整理が出されました。【論点整理】より
●デジタル教科書を本格的に導入する最初の契機として、教科・学年を絞って令和6年度から段階的に導入すべきではないか。
[小学校5年生から中学校3年生を対象に「英語」を導入し、その次に現場ニーズの高い「算数・数学」を導入する方向]
●紙の教科書とデジタル教科書は、ハイブリッドに活用していくべき。
デジタル教科書が、政府の方針として本格的に学校に導入される中で、今までICT教育情報で配信してきた情報を整理してみました。今回は月刊「国語の授業」誌に寄稿したものに加筆し、主に国語と理科を実例にとり上げ、今求められる課題を考えてみます。
2.ICT活用教育を進める研究団体の動向(2022年12月現在)
タブレットが学校に一斉に導入され、行政主導で活用が強力に進められています。「どう活用したらいいのか?」という個々の教員の思いに応えるように、ネット上のフェイスブックで多くの団体が急速に影響力を広げています。その中心は、巨大IT企業主導のソフト活用です。その一端を紹介します。◆ロイロイロノート研究グループ 6,428人
投稿される著書の例:「ロイロノートのICT"超かんたん“スキル」「わくわくパフォーマンス課題づくり」。参加者が質問すると回答が寄せられ、ロイロノートの具体的な活用法が分かるのが特徴。
◆Microsoft Education 研究会 2,601人
紹介される研究会テーマ例:「学校の未来図」
ソフト活用投稿が多い。「マイクロソフト認定教育イノベーターの提供する授業・素材活用ポータル」
◆ミライシード研究グループ 3,197人
ミライシードの使い方や授業実践を共有・相談する。投稿者の質問に多数のコメントが寄せられています。セミナーも頻繁に行われています。
◆みんなのデジタル教科書教育研究会 2,407人
「協働学習による児童のICT活用と創造力・発信力向上の授業実践」「情報デザイン・データの活用分野」の教材開発と授業実践」の紹介など。
その他にも、
◆ICTで国語授業を変える教育者グループ 847人
◆プログラミング教育 9,028人
◆教育ICT活用研究会 2,540人
◆ICT教具論からの脱却 4,727人
◆日本教育情報学会ICT活用研究会 1,701人
上記10団体だけでも、登録者数は今年の7月時点で42,824人、11月末には46,476人。4か月で約3,600人増えています。FBへの投稿内容は、オンラインでのセミナー・研究会案内・実践報告・出版物の案内・実践上の相談と回答等。翌2月初旬には48,722人、7か月で5,800人増。
3.世界の教科書制度とデジタル教科書
資料1紙とデジタルの出版規模比較 |
紙の教科書とデジタル教科書を比べる際、その背景としてデジタル出版物の急速な伸びの動向を見てみましょう。(全国出版協会・出版科学研究所調査)
2020年度は、紙の出版物が前年度比マイナス1%に対して、電子出版物はプラス28%の伸びでした。今は会社ではデジタル資料で仕事をしている時代、大学生百人に「紙の新聞を読むか」と聞いたら「読んでいるのは五人」という報道もありました。
仕事や生活情報をデジタルで受け取る時代の中で子どもたちは生きています。こうした現状をふまえて考える必要があります。
公益財団法人教科書研究センターが42か国1地域を対象に「海外教科書制度調査研究報告書」を刊行しました。
教科書制度とデジタル教科書の世界の動向の報告です。これをみると、「デジタル教科書は世界のすう勢」だと分かります。
しかし、その前提として、教科書を誰が選ぶのか(選定)、教科書検定制度とカリキュラム(日本では学習指導要領)の在り方を見ると、日本が極めて特殊な教育環境だと改めて気がつきました。
デジタル化が進んでいるヨーロッパ諸国では、
①教科書は自由発行、採択は学校や教師がすう勢②効果的なツールとしてデジタル教科書の使用が広がる
これに対して日本では、
① 文科省の厳しい教科書検定、採択は教育委員会(教員が採択権から排除)
② そのもとでの小中学生に「一人一台」のタブレット貸与
自由と創造性が尊重される海外の動きの中で、管理と統制の日本の特殊な教育環境がよくわかりました。(世界の流れに逆行)
教育の基準とされるカリキュラムについては、
◇欧米諸国では、教員の裁量(専門性の尊重)が保障されています。◇日本では、文科省の学習指導要領で教育内容・方法に厳しいしばりがあります。
「過度に競争的な日本の教育体制」(国連子どもの権利委員会の勧告)のままでは、デジタル教科書のもつ可能性や創造的な活用も阻害される懸念があります。
また、その効果的な活用が可能な少人数学級も立ち遅れています。学校現場からの子どもの実態と実践にもとづく発信、保護者・市民の運動で、デジタル時代の教育状況を変えていくチャンスだととらえたいと思います。
文科省は「各教科等の指導におけるICT 活用の基本的な考え方」の中で、「教材・教具や学習ツールの一つとしてICTを積極的に活用」と説明しています。
しかし、その前段には、「新学習指導要領に基づき、資質・能力の三つの柱をバランスよく育成するため」と活用範囲が狭められています。
デジタル教科書とタブレット活用については、その目的が何かが問われています。 冒頭、私の小学校時代の国語の思い出を書いたのは、「自分の頭で考えて判断できる人」を育てる教育の本質をこの問題を考える土台にしたいと考えたからです。
それは、日本国憲法の規定と重なります。
憲法26条「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。」
つまり、どの子も持っている発達可能性を伸ばすために、普遍的で共通の教育=普通教育を受ける権利を保障するということです。47教育基本法の「人格の完成をめざす教育」と合わせてこの問題を考える視点にしたいと思います。
ヨーロッパ諸国と日本を比べてみると
(ヨーロッパはほぼ同じ傾向)
◆次の3つの視点で比べてみると、
①教科書の基準・検定・認定・自由発行等、②教科書採択・選定、③デジタル教科書
英国(イングランド)
【教科書】 教科書は自由発行で、民間会社によって発行されている。
【採択・選定】 授業を担当する教師が、校長や教科の責任者との相談の上で、どの教科書を使用するかを決定する
【デジタル教科書】 各教室に電子黒板が普及していることから電子黒板を使った授業が一般的。電子黒板に映せるようにデジタル版を用意しいている場合が多い。関連の練習問題や映像教材なども用意されている。
フィンランド
【教科書】 教科書を用いて授業を行うことが一般的であるが、使用義務はなくい。教科書同様、広く使用されている教材にワークブックがある。
【採択・選定】 採択に関わる制度も特に設けられていない。自治体、学校、教員単位のいずれかで選定されている。学校単位の選定が最も一般的。
【デジタル教科書】 教科書及びワークブックは、紙版とデジタル版双方で刊行されている。近年、教育におけるICT活用に積極的に取り組んでいる。一方で、デジタル教科書やデジタル教材に特化した政策は、特に取り組まれていない。
フランス
【教科書】 教科書の編集は公権力から独立した私的なものとしてとらえられている。検定制度はなく、出版社は自由に発行することができる。
【採択・選定】 学習指導要領に定める内容は教えなければならないが、教材の選択は教員の自由である。教科書は、学校ごとに選択される。
【デジタル教科書】 各人が自分のパソコンからインターネットにアクセスし、自分の仕事に必要な資料やリソースを使える環境であり、教職員間のやりとりもできる。こうしたデジタル環境の一環にデジタル教科書も位置付けられている。
日本
【教科書】 学校教育法に教科書の使用義務が定められている。教科書は、検定に合格することで教科書として認知される。
【採択・選定】 市町村立の小・中学校の教科書採択の権限は市町村の教育委員会にある。
【デジタル教科書】 2020年、小中学生に「一人1台」のタブレット端末が貸与された。
2023年の小学校の教科書検定時から本格的にデジタル教科書が登場する。
◆次の3つの視点で比べてみると、
①教科書の基準・検定・認定・自由発行等、②教科書採択・選定、③デジタル教科書
英国(イングランド)
【教科書】 教科書は自由発行で、民間会社によって発行されている。
【採択・選定】 授業を担当する教師が、校長や教科の責任者との相談の上で、どの教科書を使用するかを決定する
【デジタル教科書】 各教室に電子黒板が普及していることから電子黒板を使った授業が一般的。電子黒板に映せるようにデジタル版を用意しいている場合が多い。関連の練習問題や映像教材なども用意されている。
フィンランド
【教科書】 教科書を用いて授業を行うことが一般的であるが、使用義務はなくい。教科書同様、広く使用されている教材にワークブックがある。
【採択・選定】 採択に関わる制度も特に設けられていない。自治体、学校、教員単位のいずれかで選定されている。学校単位の選定が最も一般的。
【デジタル教科書】 教科書及びワークブックは、紙版とデジタル版双方で刊行されている。近年、教育におけるICT活用に積極的に取り組んでいる。一方で、デジタル教科書やデジタル教材に特化した政策は、特に取り組まれていない。
フランス
【教科書】 教科書の編集は公権力から独立した私的なものとしてとらえられている。検定制度はなく、出版社は自由に発行することができる。
【採択・選定】 学習指導要領に定める内容は教えなければならないが、教材の選択は教員の自由である。教科書は、学校ごとに選択される。
【デジタル教科書】 各人が自分のパソコンからインターネットにアクセスし、自分の仕事に必要な資料やリソースを使える環境であり、教職員間のやりとりもできる。こうしたデジタル環境の一環にデジタル教科書も位置付けられている。
日本
【教科書】 学校教育法に教科書の使用義務が定められている。教科書は、検定に合格することで教科書として認知される。
【採択・選定】 市町村立の小・中学校の教科書採択の権限は市町村の教育委員会にある。
【デジタル教科書】 2020年、小中学生に「一人1台」のタブレット端末が貸与された。
2023年の小学校の教科書検定時から本格的にデジタル教科書が登場する。
4.「令和の日本型教育」とデジタル教科書・タブレット
コロナ禍で、タブレット一人一台が前倒しで貸与されたので、学校現場では「タブレットをどう活用するか」が大きな課題になっています。タブレットはデジタル教科書を使う道具です。昨年の6月に、「2024年度の小学校用教科書の改訂時期をデジタル教科書本格的に導入する最初の契機」とするように文科省の検討会議が一次報告を出しました。全国の教室でデジタル教科書をタブレットで使う授業が一斉に始まります。
導入に至る経過をみると、政府のねらいが見えてきます。
2020年3月、経団連が、「Society 5.0時代の人材育成に向けた義務教育の抜本的ICT化を求める緊急提言」を出しました。
財界が政府に求めたのは、
【必要とされる人材】
定型業務の多くはAIやロボットで代替可能になるので、デジタル技術やデータを活用して課題を解決できる人材
【人材を育成するための学習】
プログラミング的思考の習得・教科教育の効率化・探究型学習の充実・個別最適化された学習の実現、最低限のITスキル、情報選択力
財界に「必要とされる人材」を育むための「望ましい手段」として授業の姿を示し、政府に実現を迫っています。
これを受けて、GIGAスクール構想は、経済産業省主導ですすめられてきました。
2020年5月には、民間のGIGA スクール構想推進委員会が設立され、行政の構想の支援活動をしています。会員の中心は、世界的な情報産業のGAFA M(ガーファム)です。グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフト等が名を連ねています。
文科省のホームページをみると、これらの情報産業の大企業が登場しています。ICT教育の活用事例集は、文科省から各企業のHPにリンクして、そこに授業の活用事例がたくさん出てきます。校内研修の講師用資料まで企業が提供しています。
この動きは、地教委段階でも具体化されています。Google for Education には各種認定制度があります。(「認定教育者レベル 1と2」レベル2に合格すると履歴書などでスキルをアピールできる)
昨年の夏季休業中に各校のICT担当者対象の研修(研修の最後に認定テスト)をGoogleの講師を招いて2日間、長時間の研修を実施した市教委もあります。
2021年3月、中央教育審議会は、これからの教育は、「新学習指導要領の着実な実施」と「ICTの活用」で、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を行うように答申しました。
次の資料は、「協働的な学び」(文科省HP)のポイントになる部分です。
「個別最適な学び」とは、教師が子どもの「特性・学習進度・学習到達度に応じて、異なる方法で学習を進め」、「異なる目標に向けて、学習を深め、広げる」ことです。
資料2
「協働的な学び」とは、「異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出す」と書かれています。
わたしが学んできた児童言語研究会で大切にしてきた国語の授業では、内言と外言の活動を高める活動が多様に展開されます。 文学作品や説明文の授業の中では、わかったことなどを行間に書き込む学習活動が土台です。それをもとにして自分で考えたことを発表して、話し合い活動で共に考え、協同の学習をすすめ、作品を分析・総合しながら読みを深めてきました。
個別学習と集団学習の二本立てで、一見すると同じような言葉も出てきます。
しかし、中教審答申の中には、すべての子どもを大切にする姿勢、学び合う楽しい学習の姿は見えてきません。それは、経団連が求める「人材育成」のために、各自が個人として「社会的変化を乗り越え」「社会の創り手」になることをねらいとしているからではないでしょうか。ICTを活用した先進例・例示として示されている授業の具体例をみていくと様々なことに気が付きます。
5.国語での(文科省HP)ICTを活用した授業例
文科省HPで紹介されているICTを活用した授業例では、① 単元・題材の目標
②単元の流れ
③活用した機器・コンテンツ
④導入・展開・まとめの三段階のポイント
この四項目に分けて書かれています。
この中で④は、次の様になっています。
〇小学校3年 単元「三年とうげ」(物語文)(原文ママ)
〔導入〕
教科書を見ながら電子黒板の教師用デジタル教科書の朗読を聞き、その後、全員で教科書を音読する。
〔展開〕
4人グループで同時に書き込みが出来るよう、ひとつの電子模造紙を4分割して各グループに配布する。グループごとに、それぞれ電子模造紙に「三年とうげ」を読んだ感想を書き込む。
〔まとめ〕
タブレットPCを見ながら自分の書いた「三年とうげ」の感想を発表する。教員は児童が発表した感想を板書してまとめる。教員はタブレットPC(教員機)で児童の感想を見ながら、児童の発言に対して問いかけたり、確認したりして学習を深められるように支援する。
〇小学校5年 単元「短歌と俳句を味わおう」
〔導入〕
児童は俳句を読んで伝わってきたこと、作者が伝えたかったことを想像して(電子模造紙に)コメントを記入する。その際、「音」「季語」「切れ字」に注目する。コメントは随時更新されていくので、他者のコメントを読むことができ、人によって感じ方が違うことが分かる。その後で解説を読み、作者が伝えたかったこと、言葉の意味などを知る。
〔展開〕
自分のページを開き、自分のつくった俳句を書き込む。その上に白紙の付箋誌紙を貼り、他の人から見えないようにする。俳号(ペンネーム)で書くことで、個人への先入観をなくすことができる。
〔まとめ〕
電子模造紙上で友達が書いた俳句を読み、伝わってきたこと、作者が伝えたかったことを想像してコメントを記入する。複数のコメントが集まった時点で解説に貼った付箋紙を外し、作者が伝えたかったことと、読んだ人が感じたことの違いを楽しむ。
ICTを活用して、デジタル教科書の朗読を聞いたり、電子模造紙に感想やコメントを書き込んだりすることが、「子供一人一人の特性に応じ」た「個別最適な学び」とされています。
そして、「タブレットPCを見ながらの感想を発表」すること、友だちのコメントなどを読んで、「読んだ人が感じたことの違いを楽しむ」ことが、「協働的な学び」の例示です。
これらが「異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出す」国語の授業として紹介されている内容です。
6.デジタル教科書導入の時代の国語
国語では、話し合いで読み深め、学び合う中で認識を発展させることが大切だと思います。文科省例示の授業にないものは何か?問題点・課題を検討する際、「一読総合法読みの授業と理論」の中で三輪民子さんが紹介している1966年当時の次の一文が参考になると思います。
「一読総合法では、まず、ひとりひとりの全力発揮の自由読みが行われる。ひとそれぞれに頭の中に豊かな反応が生まれる。それをみんなの前で出し合い、ぶつけあい、補いあい、正しあい、読み方を学んでいくわけである。その機会が話し合いである。」
東京のある小学校の一年間の教科備品の総予算はわずか30万円でした。
一方、タブレットや校内Wi-Fi環境の整備等で2500万円以上の税金が投入されました。なんと学校の教科備品費の80年分以上にもなります。
全国の小中学校にこれだけの国費が投入されたのですから文科省の強力な「指導」が始まっています。
こうした状況ですからデジタル教科書・タブレットというツールに対応しなければ、自主的教育研究活動の成果は一気に日本の教育現場から押し流されてしまうと思います。
当面、紙の教科書とデジタル教科書の併存の時期がすぐ先にやってきます。
デジタル教科書はデジタル教材とセットで導入されます。わたしが一番危惧していることは、多忙な教育現場の実態では、教師の教材そのものの研究抜きに、デジタル教科書とデジタル教材だけで教育が完結し、教育の自主性・自由・創造性が失われていくことです。
それを、東京教研での中学校社会科のS先生の「地理・アメリカ合衆国の農業」レポートを読んで実感しました。レポートでは、
①教科書では、アメリカの農業の特徴は、「広大な土地を利用して、大型機械を使い、高い生産性をあげています」と書かれている。
②今のQRコードつきの紙の教科書でも、そこをクリックすると動画で『わかる』ようになっている。
① しかし、実際には1000エーカー以上の大規模農家数は、アメリカ全体の8%である。
④そこでアメリカ農業をささえてきた農家の実態や様々な課題の資料を提示し、生徒の討論を通して深く学習した。
➄デジタル教科書と「便利な」デジタル教材がセットで登場すると、教師の教材研究が無くても「そこそこの」授業はできてしまう。
しかし、本当の学習・深い学びには、教師の自主的教材研究が不可欠。画一的・国家統制の授業にならないように教材研究がますます大切になります。
自主的研究活動の中で評価されてきた価値ある教材(まずは文学作品・説明文)と授業記録をもとに、新たなツールを活用した授業方法の創造が求められていると思います。
そのためには、ベテランと日常的にタブレットを活用している若い方との協同が不可欠だと思います。(学習指導要領から出発するのではなく子どもの実態に即して)。
ICTの活用にあたっては、文科省の手引きにある10項目の「学習場面」(注)に対応して、どの場面で使ったらいいか、使わない方がいいかも検討してはどうでしょうか。
(注)
【一斉学習】①教材の提示 ②思考を深める学習
【個別学習】③個に応じた学習 ④調査活動 ➄表現・制作 ⑥家庭学習
【協同学習】⑦発表や話し合い ⑧協働での意見整理
⑨協働制作 ⑩学校の壁を越えた学習
ICTの活用は、新たな教育機器として、国語では本文への様々な書き込み機能の活用など工夫が行われています。
話し合い活動の中では、
・電子黒板(プロジェクター)で本文の立ち止まり箇所を拡大して、全員での話し合いに生かす。
・デジタル教科書の全文掲示機能を併用して,子どもの意見等が教科書のどの文に着目したのか確認する 等
わたしは、タブレット活用について、実践・疑問などを率直に交流する教育研究会(Zoom併用)にも数多く参加してきました。
その中で、「学校公開ではタブレットを使った授業を組み入れるように」「(人事考課の)管理職による授業観察ではタブレットをつかうこと」、「校内研究や市の教育研究会での研究授業ではタブレットをつかうこと」などの「タブレットありき」の事態も報告されています。 だからこそ、デジタル教科書・タブレットの活用で可能性を広げる新たな学習方法の研究は、自主的な教材研究と一体ですすめる機会を多く持つことが特に大切だと思います。
おわりに 学び合いたい書籍のご案内
(1)理科の授業についての特集号
●月刊「理科教室」2022年7月号特集「ICTを自然科学教育に生かすとは」7本の論文があります。
・ICTをツールとして使う ・ICT時代の新しい授業づくりの運動を
・堪能でない教師のICT活用~ロイロノートを使って
・GOGA端末を使ってもっと「便利」に、「対話」を促す「深い学び」を
・ICTを授業に活かす センサーとデータロガーを使う理科実験
・表計算ソフトによるシュミレーションを取り入れた授業
・GPSアプリを用いた地球の大きさの測定実習 この7本の記事から学べることは、今まで積み上げてきた自主的な教育研究活動の成果を土台に、授業の中でICTをどう生かすかという視点で具体的な取り組みだということです。
(2)滝川洋二さんの「ICT時代の新しい授業づくりの運動を」
滝川さんの現状のとらえ方の次の記述に共感します。(人一台端末で利用が進んでいる中で)
一方で先生は、世界で最も厳しい多忙が続き、しかたなく手っ取り早い教材ですまさざるを得ない状況です。その中で心配されるのが、今までの様々な教育研究の成果が、ネット上で見ることが出来ない、あっても見つかりにくく、現場の先生から存在さえも見えない、科教協運動そのものも受け継がれにくい状況いなっていることです。こういう時期に、適切に対応できなければ科教協の財産も運動も、次世代に受け継がれない可能性があります。そこで、ICTをどう使うか、IUTの時代にどんな動きが必要かを考えます。
これは、理科教育だけでなくどの教科の教育研究団体にも言えることではないでしょうか。
そして滝川さんは、今までの授業研究の財産を4つの視点でまとめています。
視点①教材整理の原則-系統性と順次制
視点②授業の記録をとる運動の呼びかけ
視点③サークルをつくろう
視点④子どもの認識を変える実験開発
さらに、
◆教科書にあるからではなく、何を教えるか」の研究
◆ICT時代の新しい授業研究づくりの運動
(若手とベテランの協力)
などを提案されています。是非ご一読を。
視点①教材整理の原則-系統性と順次制
視点②授業の記録をとる運動の呼びかけ
視点③サークルをつくろう
視点④子どもの認識を変える実験開発
さらに、
◆教科書にあるからではなく、何を教えるか」の研究
◆ICT時代の新しい授業研究づくりの運動
(若手とベテランの協力)
などを提案されています。是非ご一読を。
(3)「GIGAスクール構想」光と影、教育の展望
(大阪教育文化センター編)GIGAスクール構想について、詳しく分析しています。
1章 危険なデジタル庁創設と一体の「GIGAスクール構想」 2章 経団連「教育提言」の危険なねらいと本質
3章 教育のICT化と教育効果(新自由主義と一体では、教育効果はない)
4章 「『令和の日本型学校教育』(中教審答申)の構築の問題点と活用点
本質的な批判検討の上にたって、4章では中教審答申の矛盾をついて、答申文の活用も含めて、教育を守る取り組みについて詳述しています。
活用できる中教審答申文
「ICTをこれまでの実践と最適に組み合わせて有効に活用する、という姿勢で臨むべき」
「空間や時間を共有することで得られるものが失われる危険もあるため、その活用方法については、教師と児童生徒との具体的関係の中でしっかりと見極めることが大切」
・・・その他(本文をご覧ください)
そして、5章と6章で、国連子どもの権利委員会の指針を生かしてこれからの取り組みについて書かれています。
(4)五感を使って学び合う教育を大切に
「青少年のための科学の祭典 30周年を振り返って」と題して、全国大会実行委員長の片江安巳年先生が、JSFTODAYでこう書かれています。(一部抜粋)
・・・現代では、情報はスマートフォンやパソコンなどを通じて直ちに得られ、また遠く離れた人との情報の遣り取りも容易になりました。驚異の自然現象や未知の理論を瞬時に調べられる時代に生きる今の子供たちには、道具を使って遊ぶ機会も減り、自然や生き物に直に接する機会もほとんど失われています。バーチャル・リアリティー的映像を用いる遊びの中では、観察眼や試行錯誤による科学的検証などは育ちません。自然科学への興味関心は、試行錯誤の過程で必然的に要求される科学的検証の体験や、自然や生き物に接する中で五感を使って体験する中から生まれるものです。・・・
わたしは、LINE公式アカウントを使って、「しぜんと科学のおたより」を毎週170家庭(幼児~中学年)に毎週配信しています。
毎回テーマを決めて写真や自作のショート動画を交えて送信しています。
先日は、小学生が3人グループでレゴでロボットをつくりプログラミングで動かす「宇宙エレベーター」講座を取材しました。
その時、若い講師の先生に「子どもたちが、こんなに宇宙エレベーターに夢中になるのはなぜですか?」と、お聞きしたら、
「ロボットをつくっても、思った通り動かない。そこで試行錯誤して、自分たちで考えて、あきらめず、ロボットと向き合ったりプログラムと向き合ったりして、がんばってやるところが面白いのかなと思います。」
と、話してくださいました。
ICT時代、デジタル教科書の時代の教育は、五感をフルに動かす教育の大切さを見失わないですすめていくことが大切だと思います。