2023-01-24

今に生きる「『デジタル教科書』推進に際してのチェックリスト」

今に生きる「『デジタル教科書』推進に際してのチェックリスト」

8つの学会が懸念していること、教育の本質から大切なこと

北多摩東教育センター運営委員 中山和人

昨年度、「タブレット1人1台」が導入された中で、各地での先生方との学習会を重ねてきました。共通して学校現場から出された意見は、ツールとしてのよさと同時に、今まで大切にしてきた教育活動のよさが薄められるのではないかという懸念でした。
今から10年以上前に出されたこの「提案と要望」は、こうした学校現場からの懸念をまとめ、それに対置して大切にしたい本質的な教育活動とは何かを示す大切な提言だと思います。
この「提案と要望」のポイントを、「◆懸念・配慮すべき事項」と「◇大切な教育活動」の2つの視点で見てみましょう。

事項1
◆懸念・配慮すべき事項:理科では、教材を視聴・操作することで実験を代替し、実験の時間を「節約」しないこと。
◇大切な教育活動:理科では、実際に実験などを行い、自然現象を観察することが、本質的に重要。

事項2
◆懸念・配慮すべき事項:虚構の映像を視聴させることのみで、科学的事項の学習とすることが無いこと。どんな現象でも自由にしかも直接に観測や実験可能だという誤った直観を醸成する危険性
◇大切な教育活動:自然の解明は、観測・計測困難なものを観測・計測できるようにするための技術や、観測・計測できたごく限られたデータを元に、モデルを構築して理解する活動によって支えられている。そのような困難や達成感を生徒が身を持って体験する活動。

事項3
◆懸念・配慮すべき事項:紙と筆記用具を使って考えながら作図や計算を進める活動の縮減がないように。
◇大切な教育活動:初等中等教育段階では、紙と筆記用具のような柔軟性や操作性に優るものはない。①ノートの取り方、直接動かすことができる教具や図を用いて考える方法、②観察や実験の結果を写真ではなく図や言葉で記録する方法、③・表やグラフにまとめる方法、筆算等の計算の書き方、証明の書き方

事項4
◆懸念・配慮すべき事項:学習の「効率化」が、生徒が手と頭を働かせて学習内容の記録・整理をおこなう時間の縮減がないように。
◇大切な教育活動:学習した内容を自分のものとして定着させるための、自らの手と頭を働かせて授業内容を記録し整理する活動

事項5
◆懸念・配慮すべき事項:穴埋め形式や選択肢形式の問題による演習の比率増大につながらないように。
◇大切な教育活動:問題に関わる概念を十分に定着させるためには、問題全体を書き写すなど、作業に一定の手間と時間を掛けることが重要。

事項6
◆懸念・配慮すべき事項:児童・生徒どうしが直接的に考えや意見を交換しながら進める学習活動の縮減がないように。
◇大切な教育活動:科学的な考え方を身につけさせる上で、対象とする事項について話し合う学習活動は、対面での直接的な意見交換のほうが優っているのが現状(やりとりされる情報の密度や即時性の点で)。

事項7
◆懸念・配慮すべき事項:プレゼンテーション偏重・文章力軽視意識の植え付けが起きないこと。
◇大切な教育活動:「本当に理解する」ために、「自分の考えを筋道立てた文章により説明する」能力を養うこと。

事項8
◆懸念・配慮すべき事項:教員の教科指導能力が軽視されること
◇大切な教育活動:教員が新たな教材や教育内容の変化に対応できるだけの教材研究の時間を継続的に確保すること。

事項9
◆懸念・配慮すべき事項:教科書採択では、デジタル教科書のみを対象とすることは、記述内容の適切さ、学習の進めやすさの評価がおろそかになる危険が大きい。
◇大切な教育活動:検定教科書は、見極めが済むまでは、紙媒体の使用を継続(ないし併用) すべきと考える。

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